今日は西陣織の経糸の話をしようと思います。

西陣織の歴史で少し書きましたが（メニュー欄の私たちについてからいけます、ご興味ある方は是非お読みください）一言で西陣織といっても多種多様な進化を遂げて来て今に至っています。私たちの商品に使っている西陣織は手機ではなく織機で織られた西陣織の生地になりますが、今も手機で西陣織の生地を作られている機屋さんもおられると思います。

国が伝統工芸品として12種類の西陣織の生地を指定していますが、あの辺りの織り方で織られている生地はほぼ和装向け、着物や帯地向けではないかと思います。画像も何点か載せましたが、所謂着物っぽい柄ですね（語弊があるかもしれないですが）その辺の柄は重厚な仕上がりで私たちの商品の縫製向きではないので使っていません。

そして西陣織の近代化に伴い手機からジャカード織機への移行が行われ、様々な新しい織の技法が生み出されました。

その一つが今日お話しする「ヤスラ経」です。聞いたことありますか？多分ないですよね・・・だってグーグルでヤスラ経って検索したら私が書いた別のブログ記事が一番目にヒットするんですから（笑）まぁ私もヤスラ、ヤスラと仕事で使っていたので知っている風ですが、実際ヤスラって日本語なのか外国語なのかも判りません。知っている方いたらマジで教えて下さい。

ヤスラ経は2色の経色を使い分け、緯糸の発色を更に美しく！

通常の織機には1色の経色です、その方が経糸の操作が複雑にならずに済むからです。（単純な上げ下げのみになります）しかしこのヤスラ経は経糸が2色同じ織機にかかっています。（経糸というか経色が2色と言った方が良いかもしれません）

紋紙で操作する経糸がより複雑になる為非常に複雑で技術の必要な織り方になります。経糸の上げ下げを指示する、柄作成の技術も必要な経とも言えるでしょう。

＊紋紙とは・・・柄毎に経糸の上下を操作する穴の開いた紙です。柄が複雑になると紙の枚数も増えて、非常に巨大な紙の塊の様になります。めちゃくちゃ重いです。また紙なのですぐ破れますし紋紙を作られる方も少なくなってきているので、近年は紋紙ではなくデータを使って経糸を操作する電子ジャカードが主流ですが、紋紙もまだまだ使われています。

ヤスラ経が真価を発揮するのはチェック柄です。下のチェック柄の画像ご確認下さい。

この様なギンガムチェックを美しく織るためには配色が重要です、緯糸は＊杼を切り替えするだけですが経糸の色は1色しかかかっていない織機だとどうやっても変化させる事が出来ません。そこでヤスラ経の登場です。

＊杼（ひ）とは・・・どこにどの緯糸が出るか配色しやすい様に分けられたものです、杼の数だけ緯糸の色数を使える訳です。

上下が経糸、左右が緯糸です。

経糸がブロック毎に黒・白・黒と出ているのが判るでしょうか？（黒・白・ピンクとなっているように見えますが、実はピンクは緯糸です）。対して緯糸ですが、赤・白・茶・白・赤とブロック毎に切り替わっています。

ぱっと見ですが、この柄は経色が3色に見えませんか？で、緯色が同じく3色使ったチェックに見えると思います。

この柄を普通の織機で織るとピンクの部分は疑似的に経色っぽく見えますが、それ以外の部分は上の画像の様に分割されて見えません。じゃあピンクと同じ様に緯糸で経糸っぽく見えるようにすれば良いじゃんってなると思いますが、そう簡単にはいきません。今度はそれでは織れなくなってしまうのです。緯糸は赤・白・茶の様に横のラインとして通るだけですが、ピンクの様に上から下までべったり通るという事は生地の厚さがそれだけ厚くなってしまい織り辛くなっていくのです。（表面に出ていないピンクは裏側にべったり通さないといけません）

この様なチェック柄を美しく織るためには配色がとても重要になります、使っている経色に合わせた色を使わないと、濁ってみえてしまい折角のシルクの発色の良さを生かせなくなってしまいます。かといって経色に合わせた色ばかりで配色すると今度は全然魅力的ではない配色の生地になってしまうのです。

そこでこのヤスラ経を使うのです。

ヤスラ経には2色の経色が一つの織機にかかっています。使う色に合わせて最適な経色を紋紙の操作で合わせる事によって、通常の1色の経色の織機に比べて非常に美しい配色に仕上がります。（配色の難しさはありますが）

上記画像のヤスラ経は黒と白の2色の経色です。

少し難しい話になってしましましたが、ヤスラ経の面白さ判って頂けましたでしょうか？個人的には好きな経なので今後色々な商品でヤスラ経使った物が登場するかと思います。

Atelier Kyoto Nishijin（アトリエキョウトニシジン）でヤスラ経を使っている商品は？

現在Atelier Kyoto Nishijin（アトリエキョウトニシジン）でヤスラ経を使用している商品は以下の商品です。個人的に好きな経なのでここまでヤスラ経の商品をラインナップしているブランドってないのでは無いでしょうか。

がま口のポシェットです。タータンチェック風のチェックを織るためにヤスラ経を選択しました。小ぶりですが500mlのペットボトルもしっかり入って使いやすいサイズのポシェットですよ。

ヤスラ経の説明で生地を上で紹介しましたが、正にこのがま口長財布のギンガムチェックの画像でした。とにかく可愛いギンガムチェックを使いたかったのでヤスラ経は必須でした。非常に美しい色合いに配色出来て個人的には大満足です。

またギンガムチェックと同じ配色で京組紐のストラップもオリジナルで作り、セット販売にしました。商品としての完成度はどの商品よりも高いと思っています。

口元にワイヤーが入っていてがばっと開くコスメポーチです。これもチェックですが使っている色数も非常に多く、このチェックを美しく織り上げるにはヤスラ経でないと不可能です。複雑に絡み合ってぱっと見で何色使っているか判る人居ないと思います。

本当に西陣織って美しい！って感じて頂けるおススメのコスメポーチですよ。

超軽量のコスメポーチです。この生地もヤスラ経なのですが、多分これは見る人が見ないと判らない位繊細な生地になっています。この画像で見ると迷彩に見えますが、実は細かいグレンチェックになっているんですよ。細かいグレンチェックを奇麗に織り上げる為に敢えてヤスラ経を使いました。（普通の迷彩なら普通の経でいけます）

またこのコスメポーチだけの仕様として引手が京組紐のループ引手になっています。普通はこんな手の込んだ事をやらないのですが、血迷って京組紐でオリジナルの引手を作ってしまいました（笑）

ちょっとしたミニバッグの様に使えて便利だとお客様からも好評です。

他にもあるのですが割愛します。これだけ見てもヤスラ経が非常に多いラインナップになっていると思います。Atelier Kyoto Nishijin（アトリエキョウトニシジン）の商品を企画する上で常に気にしているのが、やはり見た目の美しさです。

西陣織に特別魅力を感じていない方へどうすれば手に取って貰えるかを考えた時、一番はまず「綺麗」「可愛い」と見た目で思って貰えるかどうかだと私は考えています。

「西陣織だから凄いんですよ」とか、「伝統工芸です、高級品ですよ～」とかは別にどうでも良いんです。まず手に取って使って貰う、そして気に入って貰ってから「西陣織って意外に良いね」って思って貰えれば良いかなと思いながら商品を企画しています。

是非一度手に取って頂き西陣織の魅力を少しでも感じて頂けたら嬉しいです。